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ゆず農家 File.10 新井さんちのゆず畑

新井さん

林業からゆず農家の道へ「農家に100点満点はない」

今回お話を伺ったのは、山に挟まれたくねくね道を進み、勾配の急な坂道を上った先の山の峰に園地を持つ新井義平さんです。取材に伺ったのは3月上旬。秋冬に収穫を終えたゆずの木の剪定作業真っ只中でした。屈託のない話し方から、気の優しさと誠実さが窺える新井さんは「自分はまだまだ勉強中の身だけど…」と控えめな様子で話しはじめてくれました。

「私がゆずを本格的に始めたのは今から4年前の平成30年です。それまでは地元の森林組合で長く働いていましたが、こう見えて持病があってね…。当時、手も脛も腰も痛めてしまって、山仕事はチームでやるものだから他人に迷惑をかけてしまう。それでゆず農家の友人に、人に迷惑をかけない仕事はないかと相談したら『それならゆずをやったらいいじゃないか』となって、今ゆずをやっています」

なるほど、林業からゆずへ。中芸日本遺産のストーリーのようです。家業がゆずと林業と農業だという新井さん。幼い頃から食卓には"ゆの酢(ゆず果汁)"が常にあり、ゆずの仕事の手伝いもずっとしてきたそう。「昔はゆずのことは大っ嫌いでした。仕事の休みの日に手伝わないといけなかったからね。あれは"黄色い悪魔"(笑)」と笑いながら「でも今こうして自分がゆずにたどり着いたのは自然な流れだったのかもしれない」といいます。

大変なことや、やってて良かったと思うことを教えてください。

「大変なのはやっぱり収穫と選別。あと草刈りですね。草刈りは一年中しないといけません」

もし草刈りを怠ったらどうなるのでしょうか。

「根本へ陽が当たらなくなるので木が弱ってしまいます。何より病害虫が発生しやすくなる原因になりますから。それからゆずをやってて良かったことは、自分のペースでやれるということですね。自分のペースでやれるということは、自分のペースで休めるということ」

続いて、栽培において大事にしていることを聞いてみました。

「ん〜難しいな。まだ勉強中ですからわかりませんが、なにもかも全部が大事なんじゃないでしょうかね。まあ私は師匠の教えを守ることに重きを置いてます。地形や気候など園地の環境はバラバラですから、みんなそれぞれやり方が違います。だから師匠は"ひとり"。私が師匠の教えを忠実に守るのは、その長年培ってきたノウハウに間違いはないと思っているからです。あまり他の人の言う通りにしていたらごちゃごちゃになって自分の目指すものがわからなくなります」

その新井さんが目指すものとは?

「お金になるゆずです。青果で出荷できる質の良い"綺麗なゆず"をつくりたい。ちゃんと手入れをすればゆずはある程度までは誰でもできますが、その先ですよね。それからどう対処するか、そこへどう持っていくかをまだ勉強してるんです。妥協してはいけない。師匠がいうには、肥料の窒素と光合成が健康な木をつくるには大事だといいます。なので陽があたるように太陽の動く位置を考えて剪定をしています。木の内側に陽があたるように透かしていますが、これが減らしすぎたら実がならなくなってしまうし…。農家に100点満点はありません。毎日勉強ですよ」

自分の目指す道をしっかり捉えているその目はとても頼もしく、ほかのゆず農家から「あの芯のぶれなささは凄い」と称賛されています。

日に日に木は成長していきます。虫がついていないかや、花が咲いたり、実がなりだしたり、園地の変化を把握するため、ほとんど毎日足を運ぶという新井さん。そのゆずに対する熱心さと丁寧さは、綺麗に管理された園地から、言わずとも見て感じ取れました。

新井さん(1) 新井さん(2)

「北川村ゆず新聞」より転載


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