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ゆず農家 File.09 浜渦さんちのゆず畑

浜渦さん

「しんどいより嬉しさが勝つ」収穫期に判る努力の実

今回は、柏木を含めた数か所でゆずを育てている御年74歳の現役ゆず農家、浜渦隆さんを訪ねました。穏やかな雰囲気が印象的な浜渦さん。多くは語らず、言葉を選ぶようにゆっくりと話しはじめてくれました。

「本格的にゆずをはじめたのは40歳のときからですが、自分が子どものころから家には200本ほどの実生ゆずがありました。当時のこの辺の職業は炭焼きが多く、炭を焼きながら米を作る人が多かった。いまゆずが植わっているところは昔ぜんぶ田んぼで、その後、米が自由化になって稲を植えるのが嫌だった自分たちはみんなでそこをミカン畑にしようとしたんです。柑橘は実生ゆずを育てている経験があったので。でも、とても食べられるようなものにはならず、すっぱくてすっぱくて…」そう言って思いだし笑いをする浜渦さん。

「それでほとんどの人はそこに実生を植えました。自分たちで苗を育てる最初っから」

実生とは、一般的に流通している5〜8年で収穫可能な接木のゆずとは違い、種から十数年かけて育てられたゆずのこと。香りが強く油成分も多いとされていて現代ではその希少性と品質の高さが評価されとても重宝されています。

取材に伺ったのは6月上旬。例年より20日ほど早く梅雨入りを迎えた高知。連日の雨に濡れたゆずの葉っぱはキラキラと輝き、枝には深い緑色の小さなゆずがたくさん。今年、浜渦さんのところは収穫量が多いとされる表年だそうです。

今の時期はどんな作業をしているのでしょう?

「今は草刈りと消毒をやっています。今が一番大変な時期ですね。剪定よりも、収穫よりも本当はこの消毒をする時期がけっこう忙しい。自分の園地は木の間隔が狭いので、機械が入らず1町1反、約1200本のゆずの木をすべて手作業でやらないといけません。園によっては消毒の入ったタンクから伸びるホースを80メートルくらい引っぱらないといけなくて、それはそれは大変ですよ」

ゆず新聞の取材を通してこれまでいろいろなゆず農家さんにお話しを伺ってきましたが、やっぱり一筋縄ではいかないゆずの栽培。悩みやこだわり、考え方もそれぞれです。ゆずをやっていてどうですか? と漠然とした問いかけをしてみました。すると間を空けずにこう答えてくれたのです。

「やっぱり生活がかかっていますからね。大変なことがたくさんありますが、自分はしんどいという思いよりも、嬉しさが勝つ。収穫のときに綺麗に実ったゆずを見るととにかく嬉しくなるんです」

ゆずをはじめた頃は、専属で教えてくれる先輩がいたわけではなかったので基本的に自己流で試行錯誤しながらやってきたという34年間。培ってきた経験は確かなもので、その結果を体現している浜渦さんちのゆず園地。村の若手農家から木の太らせ方や消毒、剪定を教えてほしいと度々相談があるそうで、その度に行って様子をみてあげているといいます。栽培技術はもちろんのこと、話し方や雰囲気から滲み出る頼りがいのある気質を知るとアドバイスを求められるのもうなずけます。

雨の降る日や少し時間のできたときには、ひとの園地へ足を運びどんなにしてるのかなと、今も勉強をしているのだそう。ゆずを育てるのに終わりや完成はなく、日々勉強することが大切であり、手をかければかけるほどゆずはその気持ちに応えてくれる。黄色く色付いた綺麗なゆずを自らの手で収穫するときのあの嬉しさがたまらなくて、今までの34年間、そしてこれからもゆずをつくり続けていける理由がそれなんだと、目の前の小さな青ゆずにそっと手を添えて、目を細めながら語ってくれました。

浜渦さん(1) 浜渦さん(2)

「北川村ゆず新聞」より転載


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