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ゆず農家 File.07 浜渦さんちのゆず畑

浜渦さん

笑顔の秘訣は「成ったなり」 家族で育てる自然体のゆず

北川村平鍋集落。集落の全員がゆずを栽培しているというこのエリアに、笑顔の絶えない夫婦がいます。

浜渦賢介さん、しのぶさん。

2人とも北川村の出身。肩の力の抜けた2人のお話を聞いていると、こちらまで幸せで暖かな気持ちをいただきました。スキルだけでは生まれ得ないもの。そのゆずが美味しくないはずはありません。

しのぶさん(以下、S)「この園地はゆずの事に対して人一倍研究熱心だった父がやっていた園地です。父が亡くなってゆずをやる人がいなくなったので、夫がそれを継いでくれました」

賢介さん(以下、K)「僕は平成元年までは郵便局の職員で、公務員だったんです。そのあとも土木業をやったり、クレーンを運転する仕事をしたり、それから農業も少し。レンタルハウスでみょうがを作っていたこともあります。そんなときに妻のお父さんが亡くなり、平成9年からゆずを始めました」

S「この人に『やる?』って聞いたら『やる』と(笑)」

K「僕は公務員でいるより自分でなにかするのが好きだっていうことはわかっていたから、すぐに決めましたよ。まあ、なんでもよかったんですけど(笑)」

S「彼のすごいところは、なんでも物怖じせず始めちゃうところ。素人なのに土木業をやって、素人からクレーンをやって、素人なりにハウスをやって、素人からゆずをやって。なんでも素人」

K「そうだなぁ(笑)」

そういって2人は顔を見合わせて笑います。

K「でも妻が久江ノ上の松﨑さんと親戚関係で、それは助かりました。僕たちはいまだに人の足元にも及ばんようなゆずしか作れないけど、それでも楽しくやっていられるからそれでいいかなと。やっぱり自由だし自分には合ってます」

S「そうね。これだけやっているけど、毎年1年生だよね。ぜんぜんわからない。でもわたしもゆずの仕事が好きだからこれでいいかなと」

これだけベテランでも毎年1年生なんですか?

K「自然相手だからね。勝てないものは勝てない。ほんとに天候次第、自然はわからないことだらけですよ。結局人間の力ではどうにもならないからね」

S「年によっては原因がわからないままゆずが腐ってしまったり、その年のゆずの事はその年にしかわからない。だから1年生ですよ。でもね、『成ったなり』でやるしかないんですよね」

K「まあ、焦っても仕方ないきね」

S「そう。精一杯やったらそれでいいよね。あまり突き詰めた生活はしていないし、おおざっぱで、なるようになるの精神やね」

自然体で自由。2人にはそれを納得させるような別の一面がありました。賢介さんはクレー射撃の団体の国体優勝のタイトルホルダー(個人でも3位!)、しのぶさんはモネの庭の庭園部門で庭の管理の仕事もしています。

K「もちろん喧嘩もするき、でもお互いちょうどいい距離感なのもいいのかも。園地で農作業中もそんなに近くにはいない。でも声をかければ聞こえる距離にはいつもいる。そういうのがちょうどいい。最盛期の今は息子も手伝いに来てくれるし、家族でこうやってゆずをやっていられることだけで幸せですよ」

2人の笑顔がこの村にあり、そこでゆずが育っている。その年なりに。確かに村のゆずには、後継者問題や流通など、課題も多いのかもしれません。でもその課題を前にしても、まずは今の姿をただ美しいと思います。この大らかなゆずがあるだけでも、この村の価値はすでに計れないほど大きいと。

浜渦さん(1) 浜渦さん(2)

「北川村ゆず新聞」より転載


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