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ゆず農家 File.04 平岡さんちのゆず畑

平岡さん

村に戻って感じたゆずの良さ 愛着のあるこの土地を守りたい

黄色く色づいたゆずを、大きな手で包み込み、片方の手でそっとハサミを添える。掌から感じた、懐かしさ、温かさ。

ああ、ゆずっていいなーー

平岡大助さん。北川村生まれ、北川村育ち。ゆずの就農者になってから4回目の収穫を迎えました。

まさか自分がゆず農家になるなんて思ってもいなかった」という平岡さん。子どもの頃から料理をすることが好きで、大阪の調理師学校を卒業後、憧れの調理師として高知県内のホテルで腕を振るっていました。

大好きだった料理の世界でしたが、ホテルでの仕事は昼夜もなく想像を絶するものだったといいます。少しの間休もうと戻ってきた故郷で、収穫の時期、当たり前のように畑の手伝いをしていたとき、自然の中でゆずを育てながら丁寧に暮らす時間が尊いものだと感じるようになりました。

「子どもの頃は、おじいさんの畑を手伝っていたんですが大変だった記憶しかありません」。だからこそ「ゆずっていいな」

そんな感情が芽生えたのは初めてのこと。「自分でも意外でした」と振り返ります。

北川村は、平岡さんのように一度は村の外で働いた人が故郷に帰ってゆず農家として稼げるように、政策を推し進めています。新規就農者には手厚い支援策があるのです。

ゆずの需要が世界中に広がっていく中、それに応えるためにはゆずの担い手を確保しなければいけません。移住者の呼び込みも大切な一手ですが、子供や孫、ひ孫に戻ってきて、ゆずを作ってもらいたい、それが、村のみんなの願いです。

10年前に北川村に戻ってきた平岡さん。本格的にゆずをやろうと決心してからは、30年以上続くおじいさんの畑を守りながら、村の援助を受けて新たな土地を開き、新しい苗木を植えました。

しかし、自然相手の仕事。順風満帆にはいきません。最も頭を悩ませているのが獣害です。

平岡さんの畑は役場のある平地から車で30分以上山奥に入ったところにあります。山の斜面を所々切り開いてゆずを植えているので、周囲は森。平地に整備された畑よりも動物の被害を受けやすいのです。

特に苗木は背が低く、根も浅いので、うさぎに葉っぱを食べられたり、イノシシに根を掘り起こされたり。最初に植えた苗木の半分は被害を受けてなくなってしまいました。

「うさぎといっても、顔がシュッとして犬くらいの大きさがあるんです。イノシシもどんなにネットを張ってもくぐり抜けて入ってくる。毎日畑に来ていれば人間の気配を感じて動物も出てこなくなるのですが、大雨で道が通行止めになって、数日来ることができないと、絶対やられますね」。それでも、この平鍋地区は「本籍もあるし愛着がある。ここの畑を守って行きたい」という意思は強い。

今、村が整備している畑を買って、来年以降もっともっと収穫量を増やして行きたいと意気込んでいます。「青果で高値のつくゆずを作りたい」と、栽培技術の習得にも意欲的です。

そして平岡さんは元は和食の料理人。ゆずを料理で使う楽しさも知っています。家では自家製のポン酢を作っているそうです。ゆず果汁に醤油とみりん、米酢を合わせ、カツオと昆布のダシでまろやかさを出すのが大助流。いつかは商品化を、そんな期待が膨らみます。

ダムを見下ろす山の一角、静寂の中に時折鹿の鳴き声が聞こえる小さな畑ですが、そこにはしっかりと村の未来を照らす燈がありました。

平岡さん(1) 平岡さん(2)

「北川村ゆず新聞」より転載


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