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ゆず農家 File.03 松﨑さんちのゆず畑

松﨑さん

村の最奥、久江ノ上地区で良質なゆずを産み出す求道者

松﨑さんは北川村の最奥、久江ノ上地区で、祖父の代から代々ゆず農家を営む家を継いで、ゆずを栽培しています。久江ノ上地区は北川村のゆず栽培の先駆けともいえる地区のひとつで、ベテランのゆず農家さんが今も良質なゆずを栽培していることでも知られています。松﨑さんはインタビューに際し、なんども「まだ自分も先輩たちから学ぶことばかりだし、ゆず栽培のことを勉強することばかりだ」ということをおっしゃっていました。
「子供のころからずっとゆずに触れてきました。ゆずが近くにあることが当たり前の人生だったですね。もちろん今もそう。中学卒業後、県外で就職しましたが、27歳で帰ってきてここでゆずを始めました。でも県外にいるときも村に帰ってきてゆずをやるというのは、常に自分の中にありました。
昔はこの集落にも森林鉄道が走っていて、林業とゆずは兼業でした。その当時はゆずだけで生計を立てるのは難しかったんです。でも林業の時代が終わり、ゆずが専業になって、先代たちはものすごく苦労をしたと思います。僕が始めたころは、もうゆずが売れるようになった頃で、だから僕はいいときに初めさせてもらったんです。当時はいいゆずを作れば今と比べ物にならないほどの単価で売れました。
でももとから村にその技術があったわけではありませんでした。農薬、剪定、貯蔵技術、経営栽培をするだけの知識も技術も、すべて先人たちの学びの努力と経験によって積み重ねられてきたんです。結果として、今は基本はある程度均一化されてきました。最低限の生活ができる収入レベルには誰でも到達できる基本的なノウハウが共有されています。だから新しく入ってくる人も、県や村がある程度は作れるように導いてくれる。でもそれから先は、個人の努力と勉強、そして経験なんです。そこに質の差が出る。質のいいゆずを作れば高く売ることができます。そして北川の特徴なんですけど、みんなその自分の経験や積み重ねの中で学んできたことを、新しい人にも全く包み隠さず教えてくれるんです。出し惜しみがないんですよ(笑)。これはすごいことだと思いますね。僕もそうやって近所の先輩たちや村の人から教えてもらいながらやってきましたし、今でもみんなで集まって勉強会をしています」
松﨑さんにいいゆずを作るにはどうしたらいいかと尋ねてみると、淡々とした語り口でこう答えてくれました。そのシンプルな言葉には、ずしりとした重みがありました。
「単純ですけど、ゆずの木と正面から向き合えるかどうかですね。きちんとやる。まじめにやる。どれだけ園地に行くかで決まります。雨が降っても畑に行く。ここの先輩はみんなそうしています。若い僕らがさぼるわけにはいかんです。それくらい、木は日に日に変わる。その姿をしっかり見て、気づいたことをする。ちょっとのことだけどそれに気づくかどうか? この集落のゆずが本当にきれいなのは、地域にそれが伝統として染みついているからなんだと思います。僕自身、ゆず畑に行かない日はほとんどありません。時間がない日でも、5分は行く。そうやって日々、一歩でも前へいけたらいいと思っています。だからもっと教えてほしいし学びたい。アドバイスが欲しい。その欲をみんなが持っているから、北川のゆずはレベルが高いのだと思います」
村のある人が「松﨑さんのゆずは傷ひとつない美しさで見とれてしまう」と言っていました。秋、久江ノ上地区に黄色いゆずの実がなる頃、かならずそのゆず畑を見に来たいと思いました。

松﨑さん(1) 松﨑さん(2)

「北川村ゆず新聞」より転載


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